ジョブズから長谷部誠へ – 今身につけるべきリーダーシップ3.0
13/03/09
「リーダー」という言葉を聞いて、誰を思い浮かべるだろうか?
経営者であれば、スティーブ・ジョブズ、孫正義、松下幸之助
野球監督であれば、長嶋茂雄、星野仙一、野村克也
戦国武将であれば、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康
などを挙げる人がおそらく多いだろう。。
皆、多くの人々から憧れられ、尊敬され、絶大な人気を誇る「カリスマ」だ。
そんなカリスマ性が今のリーダーに本当に必要なのか?という疑問から「リーダーシップ3.0」は始まる。
リーダー一人だけの力で、従業員に報奨を与え、能力や成果を評価し、やる気を起こさせ、組織を率いていく、ということは極めて難しい。
現場の第一線が自律的に働き、価値を提供したり提案を上げたりすること(ボトムアップ)、中間管理職が活発な議論と組織の上下左右に対して働きかけ活性化すること(ミドルアウト)がなければ、組織は立ちゆかないことは自明である。
したがってリーダーはそのような作用が起こるよう「環境を整え、触媒になること」が必要なのである。
そう述べられている。
歴史的に見るとリーダー像は時代背景や、組織のあり方によって様々に変化してきている。
リーダーシップ1.0 権力者<中央集権>
権力者が階層構造の頂点に立ち、指示命令により、中央集権的に組織を支配する、1900~1920年代を代表するリーダーシップの形。
少数の幹部が末端の兵士を動かすという、軍隊式中央集権的な仕組みを、最初に産業界に持ち込んだのが、アメリカの自動車会社フォード・モーターの創設者ヘンリー・フォードであった。
職人が一から組み立て完成させるというモノ作りの常識を変え、流れ作業を導入し、大量生産のための管理手法を導入した。
それにより会社は大成功を収めるが、車が消費者の手に行き渡ると、自分の好みの色、形、性能を求め出したのである。
そのニーズに応えるためには、中央集権的な流れ作業による大量生産では、もはや対応できなくなっていった。
リーダーシップ1.1 権力者<分権>
各事業部に責任者を置き、そこに権限を委譲して責任を持たせることで、組織全体をコントロールする、1930~1960年代を代表するリーダーシップの形。
フォードの後に主導権を握ったのは、ゼネラル・モーターズであった。
お手軽価格のものから高級車まで幅広いラインナップを揃え、様々なユーザーのニーズに応えた。
ちなみに同時期に松下電器産業でも、事業部制が導入されている。
リーダーシップ1.0から改良が加えられたものの、事業部内においては、事業部長が権力により統制するという点において、やはり権力によるリーダーシップであった。
次第に事業部内で上下関係が強化され、現場とマネージャーの対立を深めることになる。
また、階層による厳格な管理、効率性重視による賃金のみによる動機付けは、従業員の独創性を削いでいった。
リーダーシップ1.5 調整者
自らの権力によって率いるのではなく、組織全体に価値観と働く意味を与えること、雇用の安定を図るなど強調を促し、組織全体の一体感を醸成することにより組織を牽引する、1970~1980年代を代表するリーダーシップの形。
この時代の代表的なリーダーとして、HPのジョン・ヤングが挙げられる。
「HP Way」という行動指針を組織全体に浸透させることにより、共同体としての一体感を高め、企業を成長させていった。
リーダーシップ1.5は理想のリーダー像に思われたが、危機が訪れる。
強力な企業文化の形成により、「公私の区別なし」「滅私奉公、家庭を犠牲」といった特徴を持った社員が現れるようになった。
80年代のドラマで男女関係の場面で必ずといっていいほど出てきたセリフは「私と仕事とどっちが大切なの?」であった。
その結果、定年退職して奥さんとのんびり旅行でも行こうかと考えていても、とっくに三行半をつきつけられていたりする。
企業としては、従業員に優しい企業風土が次第に、既得権益にあぐらをかき、馴れ合いや内向きに働く姿勢に転化し、急速にその輝きを失っていった。
リーダーシップ2.0 変革者
組織の方向性を提示し、大胆に事業領域や組織の再編を行い、競争や学習を促し、縦割りの部門間、社員間の交流、活性化により組織を変革する、1990年代を象徴するリーダーシップの形。
GEのジャック・ウェルチは、不確実性の高い地代に、組織のビジョンと価値観を明確に定め、組織のスリム化と組織再編性のために大胆な施策を実施した。
そして1999年にはフォーチュン誌にて「20世紀最高の経営者」にも選ばれた。
この時代には他にも、ルイス・ガースナーや、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズなど名だたるカリスマリーダー達がいる。
欠点は、成果がリーダーの力量に依存するところが大きいため、組織がリーダーの器を越えられないことだ。
そして社員の救世主願望が強く、リーダーに過剰に期待を寄せるため、受け身になってしまう。
さらに現場で意思決定できないため、スピードが遅くなる。
リーダーシップ3.0 支援者
それまでの階層型組織を逆転し、逆ピラミッドの最も下にリーダーがいて支える新たなリーダーシップの形。
組織全体に働きかけてミッションやビジョンを共有し、コミュニティ意識を育てる。
また個人とも向き合ってオープンにコミュニケーションを取り、組織や個人の主体性、自律性を引き出す。
組織全体をそのような「場」として整えるのである。
価値創出のために個人の最大の力を引き出し、目標達成に向けて一体となれる組織が実現された時に、優れたパフォーマンスを発揮することが可能になる。
それには、個人個人が自律的に働く必要がある。そのためにリーダーは「支援者」にならなければならない。
リーダーシップ1.5では、従業員は組織の構成員であり、経営者と従業員は親子関係であったのに対し、リーダーシップ3.0では従業員は自律した個人であり、経営者と従業員は対等である。
なでしこJAPANの佐々木則夫監督、サウスウエスト航空、リッツ・カールトンなどはリーダーシップ3.0を体現している代表例だ。
実はリーダーシップ3.0の例として本書内で紹介されているサッカーの長谷部誠選手に、私は以前から注目していた。
著書「心を整える」を読み、長谷部のリーダーシップに深く感銘を受けたからだ。
ワールドカップでは本田や遠藤の華麗なフリーキックなどが連日放送され、脚光を浴びていた。
長谷部はゲームキャプテンでこそあれ、目立つポジションではなかった。
しかし、私はこの本を読んで、真のヒーローは長谷部であると確信した。
長谷部がいなければチームは機能していなかったと言っても過言ではない。
自分は前へ前へ行くタイプじゃないけれど、一人ひとりのところに行って、情報を伝達したり、共有するのは苦手じゃないかもしれない
長谷部はそう語る。
例えば国歌斉唱の際に全員が肩を組んでいたあのシーン、実は長谷部の行動により実現したというのはご存知だろうか。
長谷部がコミュニケーションの媒介となって、監督・チーム・スタッフが強力に結びついているのである。
常に組織全体を見回し、皆が熱くなっていれば冷静に、元気がなかったら声を出すというように、うまくバランスを取るようにしている。
つまり長谷部は、組織の潤滑油であり調整者なのだ。
彼がいることにより、個人個人が思う存分力を発揮できる。
長谷部がゲームキャプテンでなければ、チームの成功はなかっただろう。
もう一つ、リーダーシップを学ぶ上でぜひ見ていただきたいものがある。
イスラエル出身の指揮者イタイ・タルガムの「偉大な指揮者に学ぶリーダーシップ」という動画だ。
この動画はもう何十回見たか分からない、何度見ても考えさせられる動画だ。
タルガムは指揮者によって全く異なるリーダーシップを発揮していると説明する。
リッカルド・ムーティの例を見てみよう。
彼の指揮は、とても命令的かつ明確だ。どのタイミングでどれくらいの強さで誰が弾くのか、という細かなところまで厳しく指示している。
これはリーダーシップ1.0に近い形だと言えるだろう。
彼は素晴らしい指揮者として認められてるが、ある日演奏家達にこういう言葉を突きつけられる。
「あなたは私達に音楽を作らせてくれません。あなたは私達をパートナーではなく、楽器として扱っています。」
そして、彼はスカラ座を辞任することとなった。
では、ヘルベルト・フォン・カラヤンはどうか。
彼は指揮の間、目をつぶり、手を独特のモーションで動かしている。
相手と目を合わせず明確な指示はしていないし、タイミングも指示していない。
(というよりこのモーションではタイミングが分からないといった方が正しいだろう)
答えはリーダーの頭の中にある、演奏者は偉大なリーダーの頭の中を推測しながら弾く必要がある。
自律して行動することは難しく、リーダーの器を越えることは出来ない。
これはリーダーシップ2.0に近いだろう。
最後にレナード・バーンスタインを見てみよう。
とにかくまずは、彼の3分半の「指揮」を見ていただきたい。
もはや命令はいらない、指揮者の頭の中を推し量る必要もない。
演奏者それぞれが自律性を発揮し、自分の力を思う存分使って演奏をするのだ。
指揮者は「場」をつくるだけで良い。バーンスタインはそれを顔の動きだけでやっているのだ。
この映像を見た時には、笑いと衝撃が入り混じり、体が震えた。
これはまさしくリーダーシップ3.0の究極の形、動画内では荘子の「無為の為」と表現されている。
さて、ここで疑問がひとつ生じる。
命令せず、場を作るだけ、目立ちもしない。果たしてそれでリーダーは楽しいのか?
では、この書籍を紹介したい。
業績を上げるために部下に対してかなり厳しい指導をしていたが、順調にステップアップしていった。
そんな中、全国800店舗の中から特に優れた店長を選び出し表彰する「五つ星店長コンテスト」が開催される。
そこで全国でたった2名だけ五つ星と認められた店長が選出されたのだが、その二人はどちらも黒岩氏の部下であった。
表彰台に立つ部下達を見て、黒岩氏は涙を流し喜んだが、2人は浮かない顔をしている。
気になったので聞いてみると、
嬉しいです…。でも、黒岩さんの言うとおりにしただけですから…。
その言葉を聞いて黒岩氏は愕然とする。
上司の「操り人形」になっていくら結果を残したとしても、素直に喜べないのである。
そして、マネジメントの方法を根本から変えることを決めたのであった。
黒岩氏は童話「北風と太陽」を例えに出し、部下を北風をビュービュー吹かすように力づくで動かすマネジメントから、太陽のように照らすことで自然と部下が行動するマネジメントへと変えることを決心する。
その結果、素晴らしい結果を残す部下が育ち、コンテストで表彰台に立った時には、今度は全員が涙を流し喜んだと言う。
自分の命令だけで成果を出す喜びが1だとすれば、部下が自律して成果を出す喜びは10にも100にもなる。
人は他人を幸せにすることによって、自分の幸せを感じることができる動物なのだ。
リーダーシップ3.0が必要とされる世の中になったとはいえ、企業によっては時に以前のリーダーシップ論が必要な場合もある。
大切なのはどの方法が正しい、間違っていると決めつけるのではなく、自分の属している組織では今どの方法が適切かを見定めることである。
そのために本書は素晴らしい道標となるだろう。
今リーダーという立場にいる方、これからリーダーになろうと思っている方、どんなリーダーについていくべきか迷っている方は、ぜひ本書を手に取ることをおすすめしたい。
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お世話になります。とても良い記事ですね。