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Tadao Ando: Complete Works 1975-

先日幸運なことに、安藤忠雄氏の講演を聞かせて頂く機会がありました。
安藤忠雄氏といえば説明するまでもないかもしれませんが、世界でその名を轟かせる日本を代表する建築家です。

私の住んでいる関西エリアでは、司馬遼太郎記念館・淡路夢舞台・アサヒビール大山崎山荘美術館・兵庫県立美術館などを手がけており、その洗練されたデザインと素晴らしい発想にいつも驚かされています。

もちろん安藤氏が設計する建築物に対しての興味もありますが、密着取材したテレビ番組を拝見して以来「安藤忠雄という人」の部分に大いに興味を持ち、生でお話が聞けるのを楽しみにしていました。

当日は早くから会場へかけつけて最前列に陣取り、数メートル先にいる安藤氏の熱のこもった1時間半の講演を、片時も目を離さず全身で感じてきました。
また講演後には一番に手を上げ、質疑応答をさせていただく機会を得ることも出来ました。

講演のタイトルは「夢かけて走れ」。これまで手がけてきたプロジェクトの経験から、人生に役立つ教訓をユーモアを交えながら熱く語っていただきました。
そんな安藤忠雄氏の講演内容から、特に私が感銘を受けたポイントをご紹介したいと思います。


ビジョン(V)とワーク(W)


講演内容を一言に集約するなら、この言葉になるでしょう。
講演中は「ビジョン」という言葉が何度も何度も出てきました。

仕事に真剣に取り組むことはもちろん、そこに「ビジョン」がなければいけない。
例えば建物を建てる際には、どういったもの作るかという前に、どういった事を実現したいかというビジョンが重要。

「お金は何の栄養にもならんという事がようわかりました。」とテレビで語っていましたが、いくらお金を積んでもビジョンなき計画では安藤氏は動いてくれないのでしょう。

NHKのテレビ番組に出演した際に、当時国家戦略担当大臣だった菅直人氏に対して「民主党の政権運営は30点」と酷評したのも、政治活動にビジョンがなかったからだといいます。

人生のあらゆるシーンにおいてビジョンをもって行動することが大事、それこそが安藤氏が一番伝えたかったメッセージなのだと思います。


境界をこえる


与えられた範囲内で仕事をするのではなく、常にその外まで考えて期待以上のものを作るのが安藤忠雄流です。

大阪湾近くの「サントリーミュージアム天保山」を手がけた時は、指定されたサントリー所有の土地のみならず、運輸省管轄の海、建設省管轄の護岸、大阪市管轄の敷地、これらすべてを取り込んで設計してしまうなど、文字通り境界をこえて仕事に取り組んでいます。

この時のことは、著書「仕事をつくる」の中ではこう語られています。

日本独特のあしき縦割り行政のゆえに横の連携がない。異なった省庁が、互いの存在に関係なく回答を出してくれたおかげで思ったよりスムーズに許可が下りた。

横の連携がないことをいいことに、それぞれが出した回答を都合良く理解してうまいこと調整してしまったのでしょう。
この時のことをおもしろおかしく語り、会場の笑いを誘っていました。

アサヒビール大山崎山荘美術館を手がけた際も、与えられた土地の範囲外まで設計し、かなりモメたようです。
しかし結果的には丸くおさまり、素晴らしい美術館が出来上がりました。

安藤忠雄氏が建築家であることは紛れもない事実なのですが、単に建物を設計しているだけではなく、建物とそれを取り巻く環境、そしてそれがある市町村、そして県、ひいては国を、世界を設計しているようにさえ見えます。
決して与えられた空間だけを見ているのではなく、とてつもなく広い視点で俯瞰しているのです。

これは仕事をする上で、誰しもが持っておくべき視点なのかもしれません。


与えられた条件の中で実現させる


境界をこえる、と相反するようですがそうではありません。
いくら世界的に活躍する安藤氏であっても、予算や人員が無尽蔵にあるわけではありません。
時には難しい要望に答えざるを得ない場合もあります。

条件悪い、難しい、それを超えていく時に人生面白くなる。

と語っていましたが、そういった限られた状況を楽しんでいらっしゃるようです。

例えば、神戸市の長尾小学校を手がけた際は、緑がいっぱいの学校にしようと提案しました。
ところが植樹するような予算はない。そこでどうしたかというと、生徒達にどんぐりを拾ってきてもらい、それを植えて「自分の木」として責任を持って育てて行く。
月日はかかりましたが、それはいずれ学校を緑で囲むようになりました。

全国的にも有名な大阪の「造幣局の桜の通り抜け」には、当初4,800本の桜が植えられていました。
安藤氏はこれをさらに3,000本増やし、日本一の桜の名所にしようと発案します。
メンテナンスも含めてかかる費用は30年間で4億5千万円にもなります。

この費用を一度に集めるとなると一筋縄ではいきません、そこで一人1万円寄付してくれる人と4万5千人集めようと提案します。そして、財布のヒモが固い大阪人から寄付を集めるために、もう一工夫したのです。

それは、寄付をすると桜の木に自分の名前入りのプレートが取り付けれるというもの。
「自分のお墓が1万円で買える」でと説いて回ったと笑って語っていましたが、様々な工夫により予想を上回るペースで目標金額を達成したのです。

他にも、クライアントに「運営費がないからどうにかしてくれ」と言われた際には、自然光と風をうまく建物内に取り入れ、電気代のかからない美術館をつくってしまいました。

仕事において「時間がない」「予算がない」「人手が足りない」とついつい愚痴をこぼしてしまいそうになることもありますが、このような工夫を見せつけられると自分の悩みがなんとちっぽけで創意工夫が足りていないものかと痛感させられます。

本物のプロフェッショナルとは、莫大な予算と人員を使ってモノを作り上げる人ではなく、与えられた条件内で最高のパフォーマンスを出すことができる人の事を指すのではないでしょうか。


人生のビジョンを見つけるにはどうすればいいか?


自分の人生のビジョンを明確に思い描いているという方は、多くはないのではないでしょうか。
私もまだぼんやりとしかイメージできておらず、もやもやしていたので、質疑応答の際に安藤氏に聞いてみました。

一つの仕事をとことん極めること。それこそ四六時中やるくらいの気持ちで。
そうするとおのずと道は見えてくる。

ビジョンが明確に見えていないのは、まだまだ仕事への取り組みが甘いというからなのでしょう。

ある程度予想していた回答であったものの、あの時あの場で安藤忠雄という人物に直接教えられたということは、私にとっては大きなインパクトがあり、心に深く刺さりました。


本だけでは伝わらないこともある


本には著書の経験や想いが凝縮されており、多くの気付きを与えてくれます。
しかし、本だけでは伝わらない事も多いのもまた事実です。

事前に著書「仕事をつくる」を読んでいたものの、やはり生でお話を聞くのとは伝わり方が全然違います。
あの日、あの場所で、直接お話しを聞けたことは、私にとって忘れられない経験となりました。

印象に残った言葉は他にもあり、「教養だけでなく野性を持て」、「3日に一度感動しろ」、サミュエル・ウルマンの「青春の詩」から抜粋して「青春とは人生のある期間を言うのではなく心の様相を言うのだ」等、どの言葉も心に刻み込まれました。

どうやらあちこちで講演をされているみたいなので、ご興味があればぜひ聞きに行ってみてください。

こちらは会場でおこなわれていた抽選会で当たったサイン本!
大阪府茨木市にある「光の教会」のイラスト入りです。

安藤忠雄サイン本

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